世界と日本の森林帯区分、及び森林生態

堀大才

Ⅰ 水平的気候帯区分と森林帯区分

気候帯区分と森林帯区分については様々な考え方があり、世界と日本のいずれも決まったものはない。世界については、古くから赤道を挟んだ南北の回帰線(緯度23度26分)の内側を熱帯、南北回帰線の外側から極圏(緯度66度34分)までを温帯、極圏から南北の極地までを寒帯とする考え方がある。そして、温帯のうちの平均気温の高い回帰線に近い地域を亜熱帯としている。一部の国や研究者は今でもこの考え方を採用している。例えば台湾では、北回帰線が嘉義県と花蓮県とを結ぶ線を通っており、それより北を亜熱帯、南を熱帯としている。しかし、実際の気候や森林の相観的林相はこのような機械的区分には従わず、基本的には気温の高低によって、降水量の多寡(乾湿)によって、地形的な標高や傾斜方向によって、さらに気流や海流の流れによって異なってくる。その気候の差異を類型化して分布の違いを区分したものが気候帯である。湿潤地域と乾燥地域をどう分けるかについては様々な考え方があり、例えば年降水量500~600mm以下を乾燥気候、500~600mm以上を湿潤気候とする考えがある。また年平均気温と年降水量、及び通年乾燥の沙漠地域以外の地域を夏乾燥型:s、冬乾燥型:w、通年湿潤型:fの3タイプに分けて世界の気候を区分する地図もいくつか作成されており、夏乾燥型か冬乾燥型か通年湿潤型かの計算式も幾つか考えられている。さらに、それぞれの気候帯に成立する自然の極相的森林を類型化して区分したものが森林帯である。

1 湿潤な地域での水平的森林帯区分

 森林帯区分についての考え方は多様であるが、現在日本の研究者はおおむね以下のように区分している。

1)熱帯雨林

 通年で降水の多い地域の森林を多雨林という。年平均気温が25℃以上の地域(吉良の考案した暖かさの指数WI:240℃以上)を熱帯とし、そのうち通年で乾期がほとんどなく降水量の多い熱帯地方を湿潤熱帯とし、そこに成立する森林を熱帯雨林(熱帯多雨林)としている。熱帯雨林は基本的に林冠が高く大喬木の常緑広葉樹が最上層(樹高60m以上に達することもある)を形成しているが、階層構造は多層である。多種多様な樹種で構成され優占種がない。一般的には1haの森林で100種以上の喬木性樹種を数えることができる。常緑広葉樹といっても一枚の葉の寿命は比較的短く3か月ももたないものが多いが、通年常緑を維持するものもある。一斉に落葉し一斉に萌芽する時期がなく、年中落葉し年中新葉を展開しているので、全体的には常緑状態が維持される。大喬木の幹の根元には板根が発達しているものが多い。日本には分布しない。

2)亜熱帯雨林

 平均気温が20℃以上、25℃未満(暖かさの指数180℃以上240℃未満)であり、最低気温5℃以下となる日が基本的にない地域を亜熱帯といい、通年雨が多く明瞭な乾季のない地域に成立する自然林を亜熱帯雨林(亜熱帯多雨林)という。熱帯と亜熱帯の水平的境界は南北の回帰線に沿うことが多いが、回帰線よりも赤道側のほうに近い地域も含まれることがあり、その逆もある。基本的には高木性の常緑広葉樹が林冠を構成し、少数であるが落葉広葉樹もあり、樹種構成は多様である。日本では琉球列島や小笠原諸島に見られる。

  • 暖温帯林

 温帯は落葉広葉樹林主体の冷温帯と常緑広葉樹林主体の暖温帯に分けることができるが、亜熱帯と暖温帯および暖温帯と冷温帯を緯度で分ける考えはない。日本の研究者は、暖温帯をおおむね年平均気温が10℃以上、20℃未満で、最寒月の平均気温が零下にならず、暖かさの指数85℃以上180℃未満、寒さの指数マイナス10℃以上の地域とする人が多い。高木性常緑広葉樹が優占し、これらの樹種の葉は約半年から数年の寿命がある。筆者はマテバシイ、シラカシ、アカガシの葉が何年着いていたかを数えたことがあるが、6年が最長であった。クスノキの葉は春に展開し多くは夏に落葉するので約4か月の寿命、夏から初秋に展開した葉(秋伸び)は翌年の新葉が出るころに落葉するので7、8か月の寿命、4月に展開して翌年4月に落葉するほぼ1年の寿命を持つ葉は少ないが全体としては常緑が維持される。しかし、葉の寿命の長さは樹勢の良否に深く関係しており、樹勢不良なクスノキは多くの葉が夏季に落葉して秋伸びして夏季に新葉を展開し、秋伸びした葉も春の新葉展開前に全葉が落葉して一時的に落葉樹のようになることがある。

日本には表面のクチクラ層が滑らかで日光に照らすときらきらと光る葉を持つ樹種が多いので、これらの常緑広葉樹を照葉樹ともいい、照葉樹主体で構成される樹林を照葉樹林と呼んでいる。照葉樹の分布は温度的に幅が広く、日本では東北南部以西から九州奄美諸島まで分布する。日本では暖温帯北部はカシ林が極相林となり、南部はシイ林が極相林となるが、他の樹種が混じることが多い。なお、暖温帯林は常緑広葉樹林が主体であるので、西洋人は暖温帯を認めずに亜熱帯に含んでいるが、日本の研究者は、暖温帯林の樹種のほとんど全部が零度以下の寒さや冠雪に耐える点が亜熱帯樹種と異なる点として暖温帯および暖温帯林を設ける理由としている。照葉樹林の分布はヒマラヤ山脈の麓から東南アジア北部山地帯、中国南部、台湾、日本へと続く東アジアであり、西アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸には分布しない

  • 中間温帯林

 暖温帯落葉広葉樹林ともいう。暖かさの指数から考えると常緑広葉樹林が成立して当然の地域であるが、冬の寒さが厳しいために常緑広葉樹林が成立せず、また次の冷温帯林に優占するブナやミズナラなどの樹種も欠けている地域を中間温帯(クリ帯あるいはモミ帯ともいう)といい、そこに成立する森林を中間温帯林という。マツ類、クリ、コナラ、シデ類、モミ、ツガなどが多く見られ、優占種がコナラとなることが多い。暖かさの指数が85℃以上で、寒さの指数がマイナス10℃以下の地域にほぼ相当する。成帯的ではなく、ところどころに切れ切れの状態で分布する。カシ林とブナ林が接する場所はこの帯が欠けていることになる。なお、成帯的でなく人間活動の影響が大きい地域なので、中間温帯林の存在を否定する研究者もおり、また北海道の針広混交林(後述)のような移行帯とみなす考えもある。さらに、冷温帯林の主役であるブナ林が冬季多雪の湿潤な地域に多いのに対し、中間温帯林は冬季寡雪の太平洋岸に多いので、北海道東部から東北東部、北関東へと続く、ブナ林のほとんどない冬季乾燥型の落葉広葉樹林の連続とみなす考えもある。

  • 冷温帯林

 夏季に葉を着けて冬に落葉する広葉樹林を夏緑林ともいう。亜寒帯に分布する針葉樹のカラマツ林も夏季に葉を着け冬に落葉するが、夏緑林にはカラマツ林等の針葉樹林は含まない。常緑広葉樹林は成立せず、多雪地ではブナやミズナラが優占する落葉広葉樹林であるが、岩手県東部のように、ブナのないコナラ主体の落葉広葉樹林もある。暖かさの指数が45℃以上85℃未満に相当する地域である。北海道の黒松内低地以北(以東)は温度的にはブナ林が分布して不思議はないが、ブナ林が欠けてミズナラやコナラのナラ類にシナノキ、トドマツ、エゾマツなどを交える針広混交林が広がっているので、落葉広葉樹林から針葉樹林への移行帯とみなす考え方もある(これを北方針広混交林という)。

近年は、本来はブナを優占種とする落葉広葉樹林が分布する温度条件であるが、氷期にブナが北海道から姿を消し、その後間氷期になって6,000年前(縄文時代)にブナが北海道に再上陸し、徐々に北上して現在黒松内低地(黒松内町には約700年前に達した)まで分布を広げてきている、という考え方が有力ある。しかし最近はブナが最終氷期にも北海道最南端の松前地方に生存していた可能性が浮上してきている。北海道のブナは現在も徐々に分布を黒松内低地から北東方向に広げていると考えられる。筆者もブナの幼木が黒松内低地より東の蘭越町の山林で生育しているのを見ている。

黒松内低地以北あるいは以東の落葉樹林に混じるトドマツなどの針葉樹は氷期の遺存種とする考え方もあるが、トドマツは黒松内低地以南のブナ林の中にも見られる。ブナと同じ落葉広葉樹であるミズナラやコナラが北海道全土に分布しているのは、氷期には北海道の南部で細々と生育していたと考えられることと、ブナよりも耐乾性の高いことが主な要因と考えられる。一般的に、ブナ林とミズナラ林が接する地域では、北向き斜面にブナ林、南向き斜面にミズナラ林が発達する傾向があり、また両者が接する地域では両者の混交林も多い。

  • 亜寒帯林

 暖かさの指数が15℃以上45℃未満の地域に相当する。ユーラシア大陸北部や北米北部に広く分布する。マツ類、モミ類、トウヒ類が優占する常緑針葉樹林である。わが国ではエゾマツ、トドマツ、アカエゾマツが優占するが、面積的にはごくわずかしかない。なお、アカエゾマツは超塩基性岩地帯(例えば蛇紋岩地帯)や潮風の厳しい海岸、山地の尾根筋や頂上付近に特異的に分布することがある。シベリア東部に広く分布するダフリアカラマツの変種であるグイマツはカラフト南部と国後島、択捉島に分布するが、北海道本島には自生していない。

  • 寒帯(ツンドラ)

 暖かさの指数15℃以下の地域である。基本的に森林は成立せず、夏季はコケモモなどの匍匐植物が主体か湿地となっていることが多い。しかし、ハイマツ(シベリア、中国東北地方、朝鮮半島、日本の東アジアに分布)などのマツ類、ヤナギ類やカンバ類の灌木が地表を這うように丈の低い疎林を形成しているところもある。暖かさの指数15℃未満、最暖月の平均気温が10℃以下の地域である。水平分布では日本にない。

2 熱帯、亜熱帯地方における乾湿による区分

  • 熱帯雨林

 年間を通して湿潤で乾季のほとんどない地域に分布する。多種多様の広葉樹で構成され、通年常緑の樹種や落葉期を持つ樹種もあるが、落葉期が不揃いなので全体的に林相は常緑状態が継続する。

  • 熱帯季節風林(モンスーンmonsoon林)

 熱帯や亜熱帯で年間に乾季と雨季が分かれている地域には、雨季に葉を着け乾期に落葉する高木性樹種が多くなる季節風林(モンスーン林)が見られる。有名なチークやサラソウジュはその代表的な樹種である。なお、雨期といっても日本の梅雨とは異なり、夕方にスコール(squall、一時的な激しい風雨)が連日続く状態であり、それ以外の時間は良く晴れている。アフリカのニジェール共和国で体験したことだが、テーブル台地の上でわずかしかない植物を観察していた時に、大声で筆者を呼ぶ声がしたので振り向くと、真っ黒い雲が地表を這うように迫ってきており、急いで車の中に逃げ込むと、その途端砂塵を巻き上げた強風が吹いて辺り一面が砂塵で茶色一色の世界になり、次いでバケツをひっくり返したような猛烈な雨が降ってきた。雨は1時間ほどで止み日が照ってきたので我々は動き出したが、普段は乾いていて人や車の通路となっているワジ(wadi)が川となっていて、我々の乗った車が深みにはまって動けなくなくなってしまった。するとどこからともなく大勢の子供が集まってきて車を押してくれ、感激したことを覚えている。

  • 半乾燥林(サバナあるいはサバンナsavanna林)

 乾燥林と沙漠は熱帯地方にはほとんどなく、基本的に亜熱帯地域に分布する。アフリカの亜熱帯の、年降水量がおおむね200mm以上600mm以下で乾季と雨季が明瞭に分かれている地域では、落葉性アカシアacacia類主体の有刺の疎林とイネ科主体の草原が発達する。地下水位の高低で樹木の密度が大きく変わり、地下水位の高低で樹木と樹木の間隔が決まり、テーブル台地上などでは矮性の樹木しかなく、樹木の間隔もかなり広くなる。現在、沙漠化が問題となっている地域である。ブラジルの高台にはカンポcampoという刺の多い灌木と丈の高い草本が混じった草原が広がっている。オーストラリアの半乾燥地帯はサヘル地域より乾燥が弱いので、樹種は常緑を維持しているものが多い。

  • 沙漠(荒漠、砂漠、荒原)

 年降水量200mm以下の地域で、基本的に樹木は生育できず沙漠となる。ただし、年降水量200mmに近いところでは有刺の小灌木がところどころに生育する。沙漠には砂沙漠、礫漠(岩石沙漠)、土漠などがある。日本人が一般的にイメージするような砂の沙漠は比較的少なく、礫漠や土漠のほうが多い。時折日本に飛来する黄砂の主な発生源は黄土高原のような土漠である。

3 冷温帯および亜寒帯地方以北における乾湿による区分

  • 落葉広葉樹林及び常緑針葉樹林

 冬季寒冷で年間を通じてほぼ湿潤な地域では、大喬木主体のブナやミズナラが優占する落葉広葉樹林あるいは北海道ではトドマツやエゾマツ、本州ではオオシラビソやシラビソが優占する常緑針葉樹林が発達し、さらに北海道ではミズナラやシナノキとトドマツなどが混じる針広混交林も発達する。冬季の積雪が少なく乾燥しやすい地域では、コナラなどの乾燥に強い樹種を主体とした落葉広葉樹林が発達する。

  • 落葉針葉樹林

 冬季の厳しい寒冷乾燥と夏季の少雨により常緑針葉樹が育たず、落葉針葉樹であるカラマツ林が成立する地域である。日本には本州の中部地方の山岳地帯の一部に天然カラマツが生育するが、カラマツ主体の天然林はごく少ない。シベリア東部は冬季−60℃以下にもなる極寒冷地であるが、そこにはダフリアカラマツ林が発達する。ダフリアカラマツはモンゴル北部や中国北東部にも分布する。その亜種とされているグイマツは北海道本島には分布しないが、千島列島と樺太には天然分布がある。日本のカラマツの天然分布は長野県から静岡県に至る寡雪の山岳地帯であるが、全国各地の寒冷地で植林されており、北海道では特に多く植林されている。またグイマツも植林されている。

3)ステップsteppe

 冷温帯の乾燥地域で発達する草原を意味するが、単に草原を意味することもある。イネ科草本が主体の草原にところどころ有刺の低木を交える。ステップという語は、元々は中央アジアの内陸諸国、ロシアの南部、中国西部の高標高地帯、欧州東部に広がる冷温帯や亜寒帯の大草原をさした言葉だったが、植物地理学的には北アメリカのプレーリーprairie、南アメリカのアルゼンチンからウルグアイにかけて広がっているパンパpampasなどもステップに含まれる。

4)温帯沙漠

 通年乾燥している中国西部を含む中央アジアの諸国や北米の内陸部、南米の南部に分布する。基本的に植生は少ないが、刺を持つものが多い。砂沙漠、礫漠(岩石沙漠)、土漠などとなっている。砂沙漠は表面的には極めて乾燥しているが、砂丘と砂丘の間の底部では1mから数mも掘ると浅層地下水が出るところが多く、井戸が多く掘られ、土漠や礫漠に比べると植林は容易である。

4 日本の本州における垂直的森林帯区分

  • 海岸林

 本州ではクロマツ林となっているところが多いが、クロマツの天然分布は本州北端から九州南端までの海岸で、岩場の直接波しぶきがかからないところと考えられており、海岸砂丘のクロマツ林の大部分は戸時代から現代まで連綿と続く人による植林と考えられる。岩場の海岸にはところどころに天然の海岸林と思われる植生が残されているが、多くの場合、アカマツ林(三陸海岸や瀬戸内海の島々に多い)あるいはタブノキ、シロダモなどの常緑広葉樹とエノキなどの落葉広葉樹が混じっている。北海道の自然の海岸植生はミズナラとカシワの混じった灌木林が多い。北海道にはアカマツとクロマツは自生しないが、北海道南部の海岸にはところどころにクロマツが植林されている。

  • 平地林

 標高の低い平坦な地域には平地林が発達する。湿潤な場所にはハンノキ、ヤチダモ、ヤナギ類などが主体となっている湿地林が発達する。やや乾いた適潤な場所にはシイ類やカシ類の照葉樹林やクロマツ、アカマツ、スギ、ヒノキ、サワラの針葉樹人工林、コナラやシデ類の落葉広葉樹林、それらの混交林が発達する。モミやツガを交えることも多い。しかし、平地林は都市化の波によって、近年急速に姿を消している。

  • 低山林

 近年は里山という言葉で呼ぶことが多い。人の活動の影響を強く受けており、スギやヒノキの針葉樹人工林あるいはコナラやシデ類などの落葉広葉樹林となっているところが多い。天然林はほとんど残されていないが、植生遷移の極相は関東地方より南西部ではシイ類やカシ類の照葉樹林、東北地方や北海道ではミズナラ、コナラ、ブナ(黒松内低地以南)などの落葉広葉樹林となっていることが多い。因みに、里山という語は古く江戸時代に文献に出てくるが、現在使われている意味で使い出したのは四手井綱英先生と言われている。筆者が四手井先生から直接聞いた話だが、里山という言葉は山里という言葉をひっくり返しただけだ、と語っていた。

  • 山地林

 山岳林ともいう。標高の高い傾斜面に成立する森林で、水平的森林分布の冷温帯林に相当する。本州ではブナ、ミズナラ、コナラなどの落葉広葉樹林が優占する。北海道のような高緯度地方では低山や平地でも同様の森林が見られる。

  • 亜高山林

 水平的森林帯分布の亜寒帯林に相当する。本州では常緑針葉樹のアカマツ、シラビソ、オオシラビソ(アオモリトドマツ)、ウラジロモミなどが優占し、北海道ではトドマツ、エゾマツ、アカエゾマツが優占する針葉樹林となっているが、低地に存在する亜寒帯林は知床半島などにごくわずかしかない。水平分布の亜寒帯林に相当する亜高山林のうち、雪崩常襲地帯やがれ場など、他の樹木が育ちにくいところでは、シラカンバやダケカンバが優占する疎林となる。

  • 高山

 高山帯は水平的分布の寒帯に相当する。森林限界より高い部分で、本州ではおおむね標高2500m以上で見られ、北海道ではおおむね1000m以上で見られるが、知床半島のような北部では700mくらいから見ることができる。頂上が広く大きな山塊ほど森林限界が高く、狭く尖った山塊は森林限界が低い傾向がある。これを山塊効果という。森林帯の上には尾根筋や頂上付近にハイマツの低木林が広がることが多いが、富士山のような高山でも、比較的新しい火山にはハイマツ帯が欠けていることもある。富士山ではハイマツの代わりにカラマツが匍匐形状となって生育している。 

5 その他の局部的にみられる森林

  • マングローブmangrove

 熱帯や亜熱帯の河川の河口の汽水域に多く分布する湿地林である。耐塩性の高い樹種で構成され、ヒルギ科、シクンシ科、クマツヅラ科、センダン科などの樹木が主なものである。日本では琉球列島などの亜熱帯の河川の河口や湾の内部の波静かで干満の差の大きい海岸線によく発達している。紅樹林ともいう。樹高30mにも達する喬木もあるが、数mにしかならない灌木もある。マングローブを構成する樹種は耐塩性や不足しがちな酸素呼吸を高める特殊な機構をもつ。例えば細根の皮層部分の外皮と内皮に2重のカスパリー線をもち過剰な塩分の吸収を防ぐ、葉の塩類線から過剰な塩分を排出する、古葉に塩類を集めて落葉させて排出する、蛸足のような気根を発達させる、などである。

2)河畔林

 河川の両岸の湿った場所、時に洪水や土石流の影響を受けたり長期間水に浸かったりする場所に発達する。日本ではドロノキやヤマナラシ、ヤナギ類、ケヤキ、ハンノキ、ヤチダモ、オニグルミ、サワグルミなどで構成され、多くは陽樹である。これらの樹種はマングローブ樹種やラクウショウのような気根をもたないが、皮層通気組織を発達させている。ミシシッピー川の河口付近などにラクウショウの森林がある。ミシシッピー川の河口付近は年間の水位変動が極めて大きく、ラクウショウは膝根という気根を根系から盛んに出して、根に酸素を供給している。膝根は高さ2m程度になることがある。

  • 雲霧林

 雲霧林は世界の至る所に見られるが成帯的ではない。狭義には熱帯と亜熱帯の雲(霧)が発達しやすい山岳林を指すが、広義には雲の多い地帯の、降水量はあまり多くないものの、空中の水滴を葉が捕捉して根元に滴らせることによって降水量以上の水の供給があり森林が成立する地域の森林を指す。山地帯の頂上付近や中腹に分布する。水蒸気を含んだ気流が山地にぶつかり上昇気流となって雲(霧)が発生し、それを枝葉が捕捉し、根元に滴らせ、観測される降水量以上の水分を土壌に供給する。雲霧林の例で最も有名なのが、米国カリフォルニア州の海岸山脈に生育する世界最樹高樹種セコイア(コーストレッドウッド)の森であろう。太平洋から吹いてくる水蒸気を多く含んだ西風が海岸山脈に当たり、上昇気流となって雲を生じ、その雲の水滴をセコイアの葉が捕捉して多量の水を供給し、世界で最も背の高い森を成立させている(最高樹高はハイぺリオンHyperionという愛称のある木の115.85mである。日本では樹高の高いスギ林は日本海側に多いが、太平洋側の丘陵地や山地にも樹高50m以上の極めて背の高いスギ林が成立することがある。これは太平洋からの湿った気流が山地にぶつかって雲が生じ、それをスギの針葉が捕捉するためと考えられる。最近、雨水や霧の水滴を茎葉が直接樹体内に吸収し利用していることがスギの研究で判明しているので、雲霧林の樹木も同様のことをしているのかもしれない。

  • 硬葉樹林

 夏季に乾燥し、冬季に降水が多い地中海地方沿岸部やアメリカのカリフォルニア西岸地域、メキシコの太平洋岸、南アフリカ南西部、オーストラリアなど夏に乾燥し冬に比較的雨が多い、いわゆる地中海性気候の地域には、葉が小さく硬く表面のクチクラ層は発達しているが、照葉樹と異なりクチクラ層の表面に凹凸が多く艶のない常緑の硬葉樹林が発達する。クチクラ層に凹凸が多いのは、わずかしかない降水時に葉を濡れやすくしているのではないかと考えている。基本的に硬葉樹林は夏季の乾燥に強い抵抗性を示す。一般的に背は高くならず矮性林が多いが例外もあり、樹高100m以上の個体も記録されているオーストラリアのユーカリ林も硬葉樹林の一種とされている(100m以上の個体が確認されているのはユーカリ・レグナンス)。

地中海沿岸の硬葉樹林をマッキー(macchiaイタリア語で藪の意味)という。そこでは夏季(おおむね4月から9月にかけて)に極度の乾燥状態が続く。サハラ沙漠を覆っていた高気圧が北半球の夏に北上して地中海地域を覆うのが一因である。耐乾性の強いオリーブ、ゲッケイジュ、イタリアカサマツ、コルクガシ(常緑のナラ類)、イトスギなどが代表的な樹種である。日本には天然の硬葉樹林は存在しないが、備長炭で有名なウバメガシは硬葉樹の一種ではないかといわれている。ゲッケイジュのような典型的な硬葉樹も、日本で育つと地中海産のものよりも葉が薄く軟らかい傾向がある。硬葉樹の葉のクチクラの凹凸は、葉を雨に濡れやすくするとともに、強い直射光を散乱させて柵状組織を保護する働きもあるのではないかと筆者は考えている。

地中海とその沿岸で夏季乾燥するのは、サハラSahara沙漠を覆っている高気圧が夏に北上し、地中海とその沿岸全体を覆うと考えればよい。一方、サハラ沙漠の南にあるサヘルsahel地域のサバンナ林は夏季に雨季となって湿潤熱帯となり、冬期に乾燥して沙漠のような気候となる。なお、サハラはアラビア語に由来し荒野(沙漠)の意味であり、サヘルはアラビア語の岸辺という意味のサーヒルに由来する。

5)温量指数(温量示数)

 京都大学および大阪市立大学に在籍した吉良竜夫先生が1949年の論文で発表した、植生の相観的区分を示す積算温度の一種である。植物にとって5℃を生理的0℃とみなし、月平均気温5℃以上の月について、その月平均気温から5℃を差し引き、残ったプラスの数値を1年間合計したものであり、暖かさ(WI:Warmth Index)の指数ともいう。月平均気温が5℃以上の月しかない地域では、年平均気温(℃)から5℃を引いた数値を12倍すれば暖かさの指数が算出される。

 月平均気温が5℃より低い月については、その月の平均気温から5℃を引き、マイナスの数値を1年間合計する。その値を寒さの指数(CI:Coldness Index)という。

 暖かさの指数240℃以上:熱帯、180℃以上240℃未満:亜熱帯、45℃以上180℃未満:温帯、15℃以上45℃未満:亜寒帯、15℃以下:寒帯(ツンドラ)と区分されている。また、温帯のうち、暖かさの指数85℃以上180℃未満で、寒さの指数マイナス10℃以上を、わが国ではカシ類・シイ類主体の照葉樹林主体の暖温帯とし、暖かさの指数45℃以上85℃未満を、ブナ・ミズナラなどの落葉広葉樹林主体の冷温帯に2分することが多い。さらに、暖かさの指数が85℃以上でありながら寒さの指数が−10℃以下のため、照葉樹林が成立せずブナやミズナラも存在しない地域を中間温帯と区分することが多いが、前述のように中間温帯については異論も多い。

Ⅱ 森林生態の概要

1 植生遷移

1)遷移系列

一般的な教科書には、自然植生は裸地→地衣類・苔類の侵入→一年生草本植物の侵入→木本植物も含む多年生植物の侵入(草原)→低木性陽樹の侵入→高木性陽樹の侵入→陰樹の侵入(陰陽混交林)→陰樹が次第に増える→極相林(極盛相ともいう。遷移系列の最終段階で、亜寒帯から熱帯の雨林気候下では主に大喬木の陰樹で構成される)と変化するとされている。このような植生変化を遷移系列という。関東北部の極相はカシ林、南部はシイ林、海岸ではタブノキ林が発達するとされている。しかし、タブノキ林は海岸砂丘の波打ち際から見た最前線では成立しない。その原因は飛砂である。飛砂の衝撃で葉のクチクラ層が傷付くと、そこから塩類が侵入して塩類障害を起こすからで、クロマツ林などにより飛砂から守られた内陸側でのみ成立する。クロマツが飛砂に強いのは、飛砂でクチクラが傷付いても直ぐにヤニが漏出して、塩類の侵入を防ぐためと考えられる。原生林としてのブナ林は極相と考えられ、ブナは陰樹とされているが、ブナの稚樹はやや暗い林床では育つことができず(胚乳のエネルギーを使っている稚樹の間は生きているが、本葉を出して光合成による生活に入るとほとんど消滅する。菌害により苗立ち枯れ病で枯れてしまうという説もある)、ブナ林の成立には基本的に前植生の破壊が必要である。

2)一次遷移

現在西之島新島で起きているような、海底火山爆発などで広範囲に無植生状態が出現し、そこから人間が一切介在しない場合の遷移系列を教科書的に記述すると上述の遷移系列となる。種子の供給は鳥や蝙蝠のような飛翔動物と風と考えられている。種子の供給源がそばにある場合とない場合では、遷移の進行速度は大きく異なる。

3)二次遷移

人為も含めた何らかの働きで前植生が破壊され、その状態から人が介在しない場合の自然の植生変化を二次遷移という。多くの場合、周囲に植生が残された樹林からの種子供給を受け、また土壌が破壊されていないので埋土種子や伐根等からの萌芽が成長しやすく、一次遷移のような段階を踏まずに、いきなり木本植物が生育を開始することも多い。植生回復の速度は速く、二次遷移で成立した森林を二次林という。日本の天然林の大部分は二次林であり、原生林はほとんどない。

4)乾性遷移

植物生態学でいう乾性遷移という用語にはいくつかの意味があり、一般的には火山の噴出物上のような乾燥した状態から、植物の生育と遷移によって徐々に保水力が増していく状態を乾性遷移という。また、湿地のような過湿な条件の土地ではなく、適潤な土地での遷移系列をいうこともある。後者の意味では、日本の天然林の大部分は基本的には乾性遷移系列で成立していることになる。

5)湿性遷移

沼沢地のような湿った環境で生じる遷移系列をいう。寒冷な湿地で有機物が長時間をかけて徐々に分解するため、分解よりも未分解有機物の堆積のほうが多く、池塘→低層湿原→中間湿原→高層湿原と変化し、最終的に土壌は泥炭となる例が有名である。温和な気候の低地では、アシ(ヨシ)、ガマ等の群落が長く続き、そこに耐湿性の木本植物が侵入して有機物を大量供給し、また上流から運ばれてくる土砂の流出を防ぐので陸化しやすい。そこの土壌は黒泥土である。日本の湿性土壌ではハンノキ、ヤチダモ、ヤナギ類などが主体の森林が構成されるが、これらの樹種も湿地土壤よりは乾いた土壌のほうが成長が良い。乾性遷移系列ではナラ類やカシ類と成長競争しても勝てないので、湿地に居場所を求めたと考えられている。

6)極相(極盛相)

 自然の遷移系列の最後に現れると想定される植生を極相という。日本の場合、亜寒帯の常緑針葉樹林、冷温帯のブナやナラ類主体の落葉広葉樹林、暖温帯のカシ類が主林木の常緑広葉樹林(照葉樹林)、亜熱帯の多種多様な樹種で構成される常緑広葉樹林が極相となるが、極相は乾湿や最寒月の寒さの程度でも異なる。例えば東北地方の多雪地帯はブナ林であるが、同じ温度条件でも土壌凍結のある寡雪地帯ではミズナラ林やコナラ林である。関東地方の北部は常緑広葉樹の中では比較的耐寒性の強いシラカシ林であるが、南部はシラカシより耐陰性の高いスダジイ林である。しかし、太平洋岸の山地のように冬季乾燥しやすい地域では耐乾性の強いコナラ林が長く続く。

7)偏向遷移

雪崩、浸食、土砂崩壊、野火などが頻繁に起き、早生樹種が優占する状態が長く続き、一般的に想定される植生遷移系列の進行が止まっている状態である。人為の影響、例えば家畜の放牧、草刈り、定期的な伐採等によっても生じる。アフリカのサバンナでは、草食動物の摂食によりアカシア類のような棘低木の多い草原が長期間維持されるが、これも偏向遷移の一種であり、北海道でよく見られる長期間シラカンバなどのカンバ類の疎林となっている場所も変更遷移の例であろう。

2 陰樹と陽樹

陽樹は明るい光環境でなければ育たない樹種をいう。明るい光といっても、太陽の直射光ではなく天空からの散乱光で十分であり、直射日光の紫外線は陽樹にとっても害が強いので、樹木も最上部の葉はクチクラを厚くするなど強い直射日光を避ける傾向があり、葉の寿命も直射光に曝されているものは短い。日本産の代表的陽樹がマツ類、カンバ類、ハンノキ類などである。植生遷移系列の初期あるいは雪崩等により偏向遷移となっている土地に出現する樹種が多い。

陰樹には常緑広葉樹が多く、植生遷移系列の後期に出現する樹種が多いが、クスノキは常緑樹の中でもかなり落葉広葉樹的であり、やや寒冷な地域に生育する個体は時折新葉が展開する前に全葉が落葉することがある。クスノキの苗木の成長には明るい光が必要である。ブナは陰樹とされているが、苗木や若木の時代はかなりの光が必要である。ゆえにブナ林の天然更新には一度裸地化するか、かなりの疎林状態になるなど前植生の撹乱が必要である。陰樹とされている樹種でも、シラカシとスダジイではスダジイのほうが耐陰性が高いので、シラカシの下にスダジイは育つことができるが、スダジイの下にシラカシは育たず、スダジイ林が成立する場所では、シラカシなどのカシ類は侵入できない。

3 照葉樹林

照葉樹林は東アジア(ヒマラヤ地方から日本までの暖温帯の平地から亜熱帯の山地地域に分布し、主要樹種はカシ類やツバキ類である。葉はクチクラ層が厚く滑らかで冬の寒さや降雪、多雨に対する耐性の高い(雨によるカリウムの溶脱が生じにくい)常緑広葉で、日光にかざすときらきらと輝くので、照葉樹といわれている。照葉樹の葉のクチクラが発達し滑らかなのは、葉を濡れにくくして樹冠が冠雪しても葉の組織が凍結しにくくするため、と筆者は考えている。冬季寒冷で通年多雨の気候に対する適応形態と考えられる。やや寒冷な地方の照葉樹林は、最初に落葉広葉樹林かマツ林が存在し、そのやや明るい林床で寒風から守られて実生が育ち、徐々に大きくなっていずれ落葉広葉樹にとって代わる、ことによって成立する。筆者の住む岐阜県恵那市(1991年から2020年の平年値ではWI:107.5℃、CI:−8.2℃で温度的には照葉樹林帯に属するが、真冬には最低気温−10℃となることもあり、かなり寒冷なので照葉樹林は簡単には成立しない)の山林を観察すると、コナラ・アベマキが優占する落葉広葉樹林の多くにシラカシが高さ7、8mに密生して育って亜高木層を形成しており、いずれはシラカシが優占する照葉樹林となるであろうと推察される。

4 階層区分:主林木と林床植物

日本の自然の極相に達した落葉広葉樹林の階層構造は、上から順に高木層(大喬木が林冠を構成する)、亜高木層(林冠の直ぐ下の樹冠層で、小喬木や中喬木で構成されるが、大喬木の成長途中の成木や大きくなった若木も含まれる)、大低木層(概ね高さ6mまでで、大灌木が多いが喬木の成長途中の若木や幼木も含まれる)、低木層(概ね高さ1.5~2mまでの灌木が多いが、成長途中の喬木も含まれる)、草本層、苔(こけ)層、蔓(一定の階層を占めることはなく、匍匐形から木に絡みついて樹冠を覆うものまで、落葉性から常緑性まで多様である)と区分されるが、亜高木層や大低木層が欠けていることも多い。常緑広葉樹林や常緑針葉樹林は林床が暗いので、林床植生が貧弱でより単純な階層構造となりがちであり、林冠を構成する主林木の密度が過度な状態では、亜高木層から草本層まで欠けた極めて単純な林相となっていることがある。赤石山脈(南アルプス)のウラジロモミの例では、耐陰性が極めて高いため、林床が少々暗くてもウラジロモミの幼苗や若木が枯死せず、立木密度が極度に高い状態となっていて人が入るのも困難なほどであり、林床には他の植物はほとんど見られなかった、と東海パルプ(現在の特種東海製紙)井川山林(現在の井川社有林、赤石山脈(南アルプス)の間ノ岳等の高山部分が社有林となっており、国有林より標高が高い )の所長から聞いたことがある。